dear

大学生 そのとき書きたいことをそのまま

名古屋

地理が苦手な私は関西と近畿と中部の見分けがつかない。
やっと、愛知や岐阜は関西と呼ばれないことを知った。葬式を終えた私は残りの夏休みを利用して3日ほど1人名古屋に残ろうと思った。もともと1人で知らない土地にいるのが好きなのだ。


父の車で名古屋まで送ってもらった。小一時間ほど。車の中では最近のアニメや映画といった当たり障りのない話をしていた。あまり自分のことを多く語らない父だけどこうして話すとなんだかんだ似たような音楽を聴いて似たような映画を気に入っている。家にいても帰ってきた途端に自分の部屋に上がってしまうところも、まあ親子なのだな、と思うところである。


大学や私生活のことを聞いてこないところが好きだ。きっと、父親としての義務を果たしていない自覚はあるから口出す資格がないと思っているのだろう。今でも不思議な距離感である、いつまで彼はたまに会いに来るヘラヘラしたおっさんなのだろうか。


名古屋の店を教えてほしいと言うとスガキヤに連れて行ってくれた。ここを知らなきゃ名古屋を知ったとは言えない、と。320円のラーメン、いやいや安すぎだろう。夜ご飯は夜ご飯で1人で食べたかった私のために父が頼んでくれたのを一口貰う。美味しかった。ふざけた形をしたスプーンも、よかった。クリームぜんざいは甘すぎた。本当に独自の食文化が出来上がっている。

 


名古屋は父と母が出会った街だ。

 

 

ホテルで降ろしてもらい父と別れた。チェックインして暫く部屋に1人でいると誰かと話したくなった。会ったことのないフォロワーに名古屋の人がいたので彼と飲みに行くことにした。名古屋駅東口、金時計の下で待ち合わせた彼は名古屋大学の医学部生だと言う。エリートじゃないですか、というとやんわり否定された。随分と物腰が柔らかい人だと好感を持った。


名古屋料理が美味しいという居酒屋に連れて行ってくれた。手羽先、ひきずり鍋、ひつまぶし、片っ端から名古屋料理を頼む。彼と話すうち同じ塾で塾講師をしていることがわかって話が盛り上がった。教えてるともう一度受験したくなるよね、とか、社員のここが酷い、とか。医学部生の意外にリアルな話も聞けた。実習で看護師に酷い対応をされると言っていた。母は看護師をしていたこともあったので、うーん確かに医者はクソしかいないなんて母が話していたなと苦笑したり。


「最初は目の前で苦しんでいる人がいた時何もできないでいるのが嫌で、それだけで医者になろうと思ったんだ」
「素敵じゃないですか」
「でも作業のように知識を詰めてるばっかりで、本当にやり甲斐があるのかわからなくなってきた。友達と何歳で医者を辞めるかばっかり話してるよ」
「じゃあ今何がやりたいんですか?」
「本当はカフェとか開くのが1番いいよね。珈琲を丁寧に入れて、それをお客さんが美味しいって飲んでくれたらそれで十分でしょう。努力と、見返りの距離が近い仕事っていいなあって思う」

 

それもそうだと思った。


社会で生きること、歯車の一部になると自分の仕事が他人に与える影響を直に感じることが難しくなるのかもしれない。だから塾講師はやめられない、というところで意見が一致した。自分の説明で、授業で、生徒がわかった!と顔を綻ばせること。模試の成績を笑顔で持って来る瞬間、合格の喜びを一緒に共有できること。努力と見返りの距離が近い。私が勢いのまま辞めてしまったインターンは只管記事を書いて投稿するだけだった。コメントもない。何10万人という閲覧数がついたところで、本当に彼等の生活を何か変えたのか、という証拠になるレスポンスは何もない。

 


やっぱり人と繋がっていないと続けられないのだろうか?

 


1人になりたいと思って名古屋に来たのに名古屋の街を歩きながら考えるのは東京にいる人達の事ばかりだった。土地を変えたところで私は変われないので、考えることは結局どこにいても同じなのだ。次の日、1人で大須を歩いた。少し有名なカフェやレストランに入る。古着屋を巡る。素敵なお店がたくさんあった。薄緑色のパンツを試着したお店で仲良くなった店員のお兄さんに勧められるまま白のブラウスも買ってしまった。彼は普段東京の青山にある古着屋で働いていると言う。繋がっている、と思った。彼に教えてもらった大須のお店を片っ端から歩いた。何処も素敵だった。タイ人の男の人にナンパされた。私の好きなアイドルが生まれた。いいな、名古屋。いい街だ。

 

 


次の日に昼から友達に2人会った。2人とも、このあたり出身で5年前にインターネットで知り合った。女の子の方は東京の、男の子は関西の大学に通っている。女の子は東京で会ったことがあるけど男の子は初対面だった。5年間、インターネットで生活の様子を見守っていたので初めて会っても初めて会った気がしない。時代かなぁ。

 

大学生活なりの話をしながら、2人に食べたかった味噌煮込みうどんに付き合って貰った。ううん、味が、濃い。おいしい。名古屋コーチンというらしい鶏肉はとてもおいしい。うどんはすごく弾力があって、固めだ。おいしい。けどやっぱり味が濃い。北海道育ちの私とは全く味覚が違うんだろうな。

 

髪を切りに行くという女の子と別れて男の子と2人駅の近くのデパートで服を見ていた。適当な話をしながら。自分が選んだり勧めた服を気に入ってくれるのは嬉しい。とても。途中同じ大学に通う2人と同郷の友達も1人混ざって、髪を切ってきた女の子も戻ってきて、4人でカフェに入って色々な話をした。高校の時のこと、いい女とは、とか、最近聴いている音楽のこと。

 

髪を切ってきた女の子はとても可愛くなっていた。男の子が自然と、似合っとるな、と優しい声で言っていたのをとても覚えている。ちょっと、キュンときてしまった。女の子の容姿を優しい声で褒めることができる男の子はすごく、いい。その子が帰った後も少し3人で話をした。2人とも私の知らない音楽を聴いて本を沢山読んでいた。いいな。本、ゆっくり読んでないな。残りの夏休みで読めるかな。

 


2人と別れホテルに戻った。3泊目ともなるともう家のような安心感がある。駅前も大体の道がわかるようになっている、けれど、まあ、なんか違うよな。

部屋のゴミを片付けた。冷蔵庫にあるものを、食べるものと捨てるものに分ける。お気に入りのインスト曲を流す。昨日買った服も着ちゃう。お酒を飲んで機嫌が良いので部屋の中をぐるぐる回っていた。

 

 

 

さて、東京に帰ろう。
私の大事なものがあるのはここじゃない。