私達は空を見上げない
くすんでいる。
住みよいくせに若者の欲望の、基本的なところと、そこより少しニッチなところだけを満たしている街。メジャーな、だけど、基本的なところよりは楽しみたくない?は満たされない。
ここは私のための街だと思った瞬間にその街は私のものになる。
私達は空を見上げない。空を見上げない私達は、工事をしている南口を、「なんだか最近白い壁に覆われている狭いところ」としか思えない。圧迫感。この駅前も住んで一年近く経つと真新しさなど何もない。心惹かれるものも。知らない街で見る知らない景色のように。
くすんでいる。
初めて歩いたこの街はなんだかきらきらと輝いて私を歓迎していた。私のものになってしまったこの街は輝いていない。
駅を出て1分と経たない。銀行の隣のコーヒーチェーン店。二階。螺旋階段を登る。喫煙席は窓に面している。
玩具の積み木のようだった。
空中にむきだしの木材が、階段状にぽっかりとある。その上に人がいてなにかを運んでいる。高い。目線を下げると工事中の白い壁の囲いの中だった。壁よりもずっと高くその木材は積み上がっていて、不思議と幼稚園の頃に見た聖書の挿絵を思い出した。バベルの塔だ。人がなにかを高く作り上げているところをわたしは俯瞰して見ている。神のように。
私達は空を見上げない。地の上の情報に追われて手一杯だ、だけど、少し視線を上げると思ったよりも世界は三次元的につくられていて、ひょっとして私の価値観ってつまらない?と思う。
心がわくっと動いた。
なにかを作ったり考えたりすることは今よりも少し、世界を広げることにあたる。ような気がする。詳しくなんか知るか。私は空を見上げるんだよ。