dear

大学生 そのとき書きたいことをそのまま

ててまる3号

 

 

天気が良いので今日は自転車を漕ぐことにした。


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なんとなく必要そうな最低限の荷物とおやつをリュックに詰め込み、家を出て自転車に跨る。まずは2日前からピッツァが食べたくて仕方がないので駅前にピッツァを食べに行くことにする。私はピッツァのことが好きなのでこのあたりのピッツァ屋は大抵訪れたことがあるのだが、ひとつ食べログで気になっていながらまだ訪れていないピッツァ屋があったのでそこに行くことにした。ピッツァ。言うまでもなく気取っています。

 

自転車を漕ぐ。天気が良い。天気が、良い!寒さというものが全く含まれていない天気だ。自転車の調子もいい。若干ライトをつけると不穏な音が流れるが、日が落ちる頃には家に戻っていたいのであまり問題ではないだろう。

 

さて、ここで私は2年間乗り回しているこの自転車に名前がないことに気がつく。なんてことだ。しかし折角今日、人生で初めて「特に目的とかないけど天気いいから自転車乗り回すだけの一日ってやつをしちゃおっかな」と思ったのだからこの記念に今更だが名前をつけてみようと思う。この自転車は鮮やかな緑色をしている。BTSでマイクの色が緑なのは誰だっけ?キム・テヒョンだ。そこで私はこの自転車をててまる3号と名付けることにした。ちなみにててまる1号は敦煌の石窟寺院で螺旋丸習得の修行をしているし、2号に至っては3年前に木星の姫に見初められて以来地球に帰っていない。

 

ピッツァ屋に入りマルゲリータのランチセットを注文する(私はピッツァを食べるとなったらマルゲリータしか注文しない)。うまい。やっぱり石窯で焼いたピザは生地が違いますよね、と言いたいが最近石窯で焼いていないピザを食べていないので正直何とどう違うのかはよく分からん。私の家の徒歩圏にはランチには1000円前後で石窯で焼いたマルゲリータを食べられる店が4つほどあるので講義の合間を縫って月に2.3回食べに行っている。

いいでしょ。


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それにしても石窯ってかっこいいな。外側は鮮やかな色のタイルて飾られているのになんかこう…黒い…強そうな窯の中はめちゃくちゃ燃えてるしめちゃくちゃうまいピザ…違うピッツァのこと作れるんだもんな。最強だ。石窯になりたい。はい、私の将来のビジョンは日本のピッツァ業界を牽引するような石窯になることです。具体的には、5年以内に自分がリーダーを任されたプロジェクトで成果を残し、石窯部長に就任します。そして10年以内には東京の三ツ星レストランの厨房に置かれるという目標があります。そのために現在も毎日の筋トレを欠かさずより強固な石窯へと…ダメだ、最近毎日ESのことばかり考えているせいで気を抜くとすぐES形式にしてしまう。私は勉強とか就活とか忘れるために今日は久しぶりに一日出かけるんだよ。大体石窯部長って何だ。ちょっと本当にそういうあだ名の部長居そうだな。口数も少ないし最初はとっつきにくくて若い女の子達に怖がられてるんだけど実はめちゃくちゃ信念があって頼れる上司なんだよな。しかも家族をめちゃくちゃ大事にしているし石窯部長の下で鍛えられた社員は後に焼きたてピッツァのように魅力的な人間へと成長して…違う、石窯部長のことは置いておこう。ピザ、うまい。ありがとう石窯部長。

 

 

ということで無事ピザ、ではなくピッツァを腹に収め、ててまる3号に乗り込む。既にお尻と脚が痛い。昨日夜久しぶりにジムに行ってトレーニングしたせいだ…しかしタニタに色々と身体のことを測定してもらったら体脂肪率は案外23%あるし筋肉量に至っては「少し足りないですね」などと言われて二度見してしまった。私で少し足りないのか!?っていうか「少し足りないですね」ってなんだ。少し、ってなんぼよ。具体性が少し足りないですね。

 

イヤホンのシャッフル再生はしょっぱなからBTSのLOSTを流している。いや、これからサイクリングするのにLOSTて。しかし今日の私はひたすら目的なく線路沿いを走るつもりなのでLOSTは…しない…筈だ……

 

先月タイヤを取り替えたばかりのててまる3号はぐんぐん進んでいく。暫くは私も何度か走ったことのある道だが、20分ほど漕いでいるともう全く見たことのない道になった。道が広くて人が少ない。チェーン店みたいな大きさのチェーン店ではなさそうな珍妙な店が並ぶ。看板のフォントがデカくてわかりやすくてダサい。イヤホンからはクラムボンのシカゴが流れている。クラムボンとかミツメの曲を聴いていると何故かキム・テヒョンのこと思い出すんだよな。っていうかお前、日本のインディーズバンドも色々知ってるだろ絶対。最近何聴いた?今度こっそり教えてくれよ。

 

 

少し疲れてきたので目についたベンチで休む。13時も超えると日差しが強い。ウィンドブレーカーの中の服を1枚脱いだ。ウィンドブレーカーは前ポケットが便利なので脱がない。靴からマスクまで全部黒で出てきてしまった…


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あっ端に写っている緑はおやつの無印で買ったラムネです。ラムネ、いいよね。たまにふと食べたくなるもんな。すっぺ〜

 

再び自転車を漕ぎ出す。だんだん目に映る景色の情報量が減ってくる。田舎、いいよなあ、余白があって。っていうか校庭が広い。仙台にいた頃通っていた私の小学校くらい広い。団地も一棟一棟距離がしっかり取られていてどの部屋も日当たりが良さそうだ。いいなぁー。都会は余白が少ない。隙間なく建物や情報が詰め込まれている。緑がないわけじないけど、「ここに緑を置こう」という意識の下に緑で埋めているような…なんだろう、自然さがない。しかし田舎に戻ったら田舎で戻ったで私も情報量が少ないと文句を言うんだろうな、高校生の頃そうであったように。

 

 

イヤホンからはウーター・ヘメルのBreezyが流れている。気分が良い。私は音楽の歴史や分類について詳しくはないが音楽を聴くことはかなり好きで、そして最近私が好きな音楽は大抵ジャズかR&Bオルタナティブロックという名前がつけられていることに気がついた。多分私が一番好きな音楽のジャンルはジャズだと思う。と気がついてからよく家にいる間はBLUE NOTEのプレイリストをシャッフルで流している。全然どれがだれのなんの曲かはわからないんだけど。

 

 

暫くててまる3号を漕いでいたら突然なかなか敷地面積の広く大きくて新しそうなショッピングモールのような場所についた。折角なので駐輪場に自転車を停めて散歩することにする。うわ駐輪場が無料だ…すごい…そこでトイザらスが目に入った。

 

 

さて、私はトイザらスに入ったことがない。

 

 

幼少期を過ごした土地にもトイザらスがあることはあったが、なんとなく私はおもちゃやゲームというものに昔から興味がなくひたすら本ばかり読んでいる可愛げのないヤツだったので、本当に一歩も足を踏み入れたことがないのだ。

 

 

…いっちょ、行ってみますか。

 

 

 

ということでトイザらスに足を踏み入れる。おもちゃが!!!!すごく!!!!ある!!!!!そして店内に入ってすぐ21歳という私の年齢は一番トイザらスにふさわしくない年齢であるということに気が付いてしまった。お母さんには若いし妹弟がいるにも年が離れすぎているだろうし…なんとなく居るだけで申し訳無さがある。すみません。

 

しかしすごい。おもちゃというものは、色数が多い。統一感がない。色数が……本当に…多い…………ベージュ系女子とやらはトイザらスの店内にある色数を見たら気絶するんじゃなかろうか。あとなんか服が売っているんだけどなんかもうこの売られている服が子供が普段着ていい服なのか遊びとしてのコスプレ用のものなのかよくわからん。もう子供服なんて何が「普通のデザイン」で何が「普通じゃないデザイン」なのか覚えとらんのだ。大体幼稚園生とか小学生なんて何着ても「こども」と「小さい」が強すぎて服の違和感なんて忘れてしまう。あと色々な場所からドーンとかドギャーンとかピコピコとか音が聞こえる。色数と音数の多さにくらくらしてきたので一旦店を出てベンチで休憩することにした。いやすごいトイザらス、これは…子供のうちに行っておくべきだった。21歳で初めて見るには刺激が強すぎる。

 

 

暫くショッピングモール内のベンチで休む。水筒に入れたお茶を飲む。熱い。今朝沸かしたてのお茶をTIGERのボトルに入れたのだから当然だ。いいんだよ私は暑い日に熱い飲み物を飲める女……

 

 

10分ほどベンチで虚空を見つめた後ショッピングモール内を探索すると駄菓子屋を見つけた。吸い込まれるように入り15ねん前を思い出しながらぽいぽいとカゴに入れていく。あーそうそうあったな、これ、懐かしいな、50円とか超えるともう高級品だったな…21歳の私はトイザらスに居場所がない代わりに駄菓子屋で値段を気にせずなんでも買えてしまうのだよ。と思いながらレジに並ぶ。なが〜いレシートの最後に示された合計金額は240円だった。

 


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サイコー。

 

さてショッピングモールを後にしてまた自転車を漕ぐ。と、どこかで道を渡りそこねてしまい線路から外れてしまった。さらに車線の右側だ。すぐ左に渡ろうと思っていたのにずいぶん長いこと横断歩道がなく、仕方ないので歩道に上がり自転車をのんびり押して歩く。右手にはひたすら柵。柵、って何だ。何が囲われているんだ、私の右手には何があるんだ、って、

 


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米軍基地か。

 

柵の内側が見えるようになったところで白人の家族がだだっぴろい敷地内を歩いている様子が見えた。その後なんとか左側の車線に渡れたのだが、確かに道を渡ってみるとこのあたりの店はどこかアメリカンである。バーガーショップ、英字の並んだバイク屋、スプレーアートがされた壁もある。面白い街だな、と思ったところでまた左に曲がると線路沿いの道に戻ることができた。

 

 

ここからしばらくは本当に只管線路沿いだ。只管線路沿いの道を走っていると、途中から目の前を私と全く同じように全身黒、ショートカットの女の子が走っていた。高校生くらいだろう。いつの間にか私の目の前にいたのでいつどこで合流したのか全く記憶にない。自転車まで同じ緑だ、が、彼女の自転車は買いたてのようにぴかぴかしていて私のはそれに比べると、薄汚れて、いる…うう、ごめんなててまる3号、明日ちゃんと綺麗にしてやるからな…

 

線路沿いの一本道をひたすら自転車を漕ぎ進めている人間は私と後ろ姿そっくりの彼女しかいないのでなんだか途中から不思議な気分になってきた。生き別れの妹だったりするのだろうか?このまま彼女の後をついていったら何が待っているんだろう。そう思うと目の前を走る彼女が今にも突然振り返り、慌ててブレーキをかける私に「お姉ちゃん、まだわからないの?私よ」などと言ってきそうな気がした。が、線路沿いにある似たような駅を3つほど過ぎたあたりで彼女を見失ってしまった。似たような駅3つのうちのどこかで住宅街に入り込んだのだろう。さようなら、妹よ。

 

 

もう15km以上走っている。随分疲れてきた。妹と別れてしまった寂しさからか、ててまる3号が話しかけてくるようになった。

 

いしおちゃん、そろそろ折り返して帰ることにしたほうがいいんじゃない?

そうかなあ…

おしり痛いでしょ。

痛いよ…

僕のサドル小さいのにいしおちゃんおしり大きいからね。

 

うるさい。

 

 

また似たような駅が見えたので駐輪場(またも無料だ)にててまる3号を停めてコンビニに入る。冷たいカフェオレを1本買い、店の前の椅子ですぐに飲み干した。レジを担当したアルバイトの男の子は新入りらしく、先輩の女の子が後ろで手順を教えていた。男の子は少し不器用そうだったが、一生懸命に手順をこなしている。かわいいな。先輩の女の子も好きになってしまうかもしれない。いや、あるいは彼女も家では同性の恋人が3人待っているかもしれない。人は一見しただけじゃ何も分からないものですよ。

 

カフェオレを飲むときにマスクを外すと、風の中に砂と石と木と、どこかの家の夜ご飯の匂いが混ざっていた。私達はここ一年ほどで町がどんな匂いをしているか忘れているよなあ、と思う。

 

途中で脱いだ服を着込んでててまる3号を駐輪場から連れ出す。もっと休ませてもらえると思ったのだろう、彼は不満げにギィと音を立てる。

 

なに、本当にもう帰っちゃうの?

帰るよ。

何もしてないのに。今日は一体何したかったの?

一緒に散歩がしたかったんだよ。

ふうん。

 

 

という訳でまた来た道を戻る。帰りは一切寄り道をしなかった。ただ只管に音楽を聴きながら自転車を漕いだ。行きは自分でも思考を記録しようと思っていたのでときおり立ち止まってはメモをしながら進んでいたけど、帰りに誰に伝えるでも残すでもなくただぼんやりいろんなことを考えながら自転車を漕ぐのもまた楽しいことだった。公園で見かけたひとり皆から離れたところにいた黒人の男の子と、セックス・エデュケーションの撮影場所そっくりな車の廃棄場のことだけ妙に覚えている。適当に気に入った場所の写真を撮ったりした。これはそのへんの倉庫と花。


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なんつー地味な写真だ。

 

やれやれ、本当に何がしたかったんだろうな。私は今日、一体何をしたんだっけ?私は、今日……自転車を、漕いだ。とてもたくさん漕いだ。自転車に名前をつけて、知らない駅をたくさん見て、トイザらスにビビって、駄菓子を買って、知らない町の生活を眺めて、生き別れの妹に出会って、コンビニでカフェオレを買って帰った。その中でいろんなことをぼんやり考えていた。40km自転車を漕いだ。

 

 

 

うん、十分。

 

 

 

などという妙な達成感に包まれ、何度かここはどこかわかりまセンターに電話をかけてLOSTしながらも私は無事家に辿り着いた。ててまるにお疲れ様、と言うといや〜疲れたよ本当に…と心なしか朝よりもタイヤがやわらかくなっているように見える。ごめんごめん、またすぐ空気入れ直して油差してあげるからさ、懲りずにまた一緒に散歩しようよ。

 

 

ベッドに倒れ込む前にててまる1号と2号に手紙を書いた。中国はまだサイクリングには寒い?木星の町はどんな匂いがしますか?中国も木星もまだ見たことのない私にとってはひとしく遠かった。20km移動するだけで世界はまだまだ私の知らないことばかりだ。

 

 

世界は広いよ。今度はどこに行こうか?